絵本作家の井上奈奈さんの新刊本「星に絵本を繋ぐ」が2021年10月6日に雷鳥社より刊行されました。
鮮やかなブルーのカバーには、馬に乗った少女と星が描かれていますが、本のスピン(ブックマーク)がリボン素材で本の下に付けてあり馬の尻尾のようになっています。
本書が生まれたきっかけは、2019年3月に著者の絵本作家の井上奈奈さんを講師に迎えて始まった、”ゼロからギャラリーで発表まで絵本作家と創る「絵本創作ワークショップ」” です。今回微力ながらgallery kissaの私も制作のお手伝いをさせていただきました。このワークショップは全6回の日程でプロ・アマ問わず、絵本の作り方を井上さんから学びながら制作を進めます。ワークショップの最終日に手で製本作業を行い。製本を終えた後、ギャラリーで世界で一冊だけの絵本の展示を行います。約3か月で、構想から絵本の物語制作から、絵の制作をして、製本と展示をしなければいけないので、参加者にとっては大変な作業ですが、面白い作品が沢山生まれて、毎回驚かされてます。そしてなにより受講生が絵本を出版される日が早く来ないかと願ってやみません。ワークショップのアイディアは、井上さんが美大生の時に課題で3日という超短期で絵本を作ったという経験から生まれたようです。
井上さんから、絵本創作ワークショップの3期の展示を終えたころに「色々絵本づくりのノウハウがわかってきたので本にしてみたい」と相談を受けたところから始まりました。雷鳥社ならばきっと企画を面白がってもらえるのではと、持ち込みしてみることにしました。出版社の雷鳥社とは、彫刻家はしもとみおさんの著書「はじめての木彫りどうぶつ手習い帖」でもお世話になった出版社ですがほぼ即決で企画が進みました。前回もお世話になった文京図案室というデザイン事務所との共同作業がとても楽しかったこともあり、ブックデザインも文京さんの芝さんで!とお願いしました。
企画段階では、絵本ワークショップのような絵本作りのハウツー本的な話がメインだったのですが、本の構成を考えるうちに、アート作品のような美しい井上さんの絵本の作品集のボリュームを増やそうというデザイナーの芝さんからの提案が自然な流れで決まりました。そこで、デザイナー芝さんの一押しのカメラマンの鈴木さんに、本に使う写真、全て撮りおろしていただくことになりました。全行程で著者の井上奈奈さん、雷鳥社の編集益田さん、文京図案室のデザイナー芝さん、カメラマンの鈴木さんと、私(gallery kissa)が本作りに関わっています。
また、絵本作りの話についても、ワークショップのように進めるより、直近に出版した「猫のミーラ」をどのように制作したのかという実例から、井上さんがどのようなことを大切にして絵本を作っているか、そしてそれを出版するまでの各工程を時系列で追うという話をメインにすることになりました。
巻頭の作品集では、出版編集者から、デザイナー、製本、印刷など、絵本づくりに関わった人たちの話を聞きつつ、インタビューと絵本の撮影をさせていただきました。それぞれの分野で本にかける情熱が本当に熱く、そして井上さんとの本制作を大事にされている事がひしひしと伝わってくる楽しい取材でした。
本を作りにあたって、井上さんの「美しいものをつくりたい」、目標に向かって「ありとあらゆる可能性を引き出す」。それには井上さん自身だけでなく、関わる人全ての力を最大限に使って成し遂げるという不思議な能力を使ってのモノづくりがとても心地よい時間でした。著書の中でも随所でその能力が発揮される場面が登場します。
本では巻頭の作品集に続く、第2章の「絵本を作ることに大切にしている10のこと」が井上さんが最初に執筆された部分ですが、この最初の文章を読んだとき、背筋がピンと伸びるような研ぎ澄まされた刃物のような文で感動しました。井上さん自身の評価では、ハウツー本なのにプライベートの話題が多く、多くの人に共感されないかもしれないと心配されていましたが、井上さんにはこのままのスタイルで自己を貫いていただいた方が、良い本が出来ると確信したので、ハウツー本ということは忘れてもらって、このままのスタイルでのびのびと書いていただくようにお願いし、編集者の益田さんも同様の意見でした。こういった企画段階とはまったくコンセプトが変わっても、万人受けでなくても本当に魅力的な本を作るということに神経を張りめぐらせているのが雷鳥社の素晴らしいところです。
とにかく最初から最後まで楽しい本作りでしたが、何よりも最終原稿を通しで読んだと時、「これはものすごい本が出来てしまった」とひしひしと感じました。
現在、10月1日~10月31日と長期にわたって、六本木の文喫にて、「星に絵本を繋ぐ」井上奈奈 出版記念展が開催されています。
新刊本だけでなく、井上奈奈さんの著作絵本すべてが楽しめます。絵本の原画から、著書に登場する書籍など文喫全体をめぐって楽しめる仕掛けになっています。
10月15日(金)19:30からは出版記念トークイベント「何処にもない本が生まれるまで」があります。本の制作メンバーが揃って、本づくりの過程やエピソードを熱く語る予定です。オンラインでも参加で楽しめますので、ぜひご参加ください。
トーク日から1週間はアーカイブでもご視聴いただけますので、聞き逃した方もアーカイブでぜひ。
参加申し込みURL https://hoshi-tsunagu-bunkitsu.peatix.com/
さらに、文喫での絵本ワークショップも開催される予定です。「文喫で絵本作家になる」2021年10月22日スタートとなっています。こちらも文喫のサイトから申し込みできますので、ご興味ある方ぜひご参加ください。ワークショップで完成した絵本が文喫で展示される予定です。とても貴重な体験となることでしょう。今から展示が楽しみです。
参加申し込み URL :https://ehonworkshop.peatix.com
本の原稿が完成し印刷所に入稿たあと、印刷所から校正紙が届くのですが、メンバー全員で色味や雰囲気などをチェックしました。この時、色校で送られてきた表紙の色がイメージとだいぶ遠かったので、印刷所の現場へ行き色の確認を井上さん、デザイナーの芝さんと3人で立ち合いをさせていただきました。
現場で希望する青の色味がなかなか再現できず、オペレーターに何度も試し刷りをしていただいたきました。「青色の中に赤味が感じられないようにしてもらいたい」という、井上さんからの無茶ぶりな要求で、職人さんも「指定の色には赤みが入っているから、難しい」とこぼしつつも、青インクの調色を色々調整していただきました。それでもインクを吸いやすい紙質で1度では理想の青が出ないので青の版を2つ使いたいという芝さんの要求にも、その場で版をもう一つ作っていただいたりもしました。最後には、井上さんが、「マティスのブルーがわかりますか?あの色を出したいんです」という、職人さんに向かって笑ってしまうような言葉が出てきたのですが、職人さんもそれでスイッチが入ったかのように、最終的には見事なマティスブルーの表紙が刷り上がりました。
絵本作りだけでなく、モノづくりに関わる全ての方に届けたい本だと言えます。なによりも本を手に持っているだけでも何故かワクワクできる本です。気になった方はぜひ手に取ってみてください。
2021年10月 gallery kissa
瀧本佳成
星に絵本を繋ぐ
著者 : 井上奈奈
出版社 : 雷鳥社 (2021/10/6)
発売日 : 2021/10/6
単行本 : 144ページ
公式特設サイト : https://hoshiehon.wixsite.com/home
井上奈奈
作家、画家、時々選書。本に纏わる色々。京都府舞鶴市生まれ、東京都在住。16歳のとき、単身アメリカへ留学、美術を学ぶ。武蔵野美術大学卒業。国内外での個展やアートフェアにて作品発表を続け、近年は絵本作品を発表。2017年には著作の絵本『ウラオモテヤマネコ』『くままでのおさらい』の二作品が舞台化。2018年、絵本『くままでのおさらい』特装版がドイツライプツィヒにて開催された『世界で最も美しい本コンクール』にて銀賞を受賞。http://www.nana-works.com/